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老上海で活躍した推理小説家 孫了紅 その他の作家 [作品紹介]

 孫了紅は中国で初めて「怪盗」による探偵小説を創作した。優れた文章力と、社会に対する鋭い批判で独特の世界を築いた。犯罪心理、恐怖感などを克明に描き出し、近現代探偵小説の発展に寄与した。

 その他にもこの時代活躍した作家が何人もいるようだが、現在その作品を読むことができない。
 探偵小説は通俗小説、中国では「鴛鴦胡蝶派」の小説といわれる。この通俗小説史を扱った研究書や、「鴛鴦胡蝶派」小説の研究書で一部が読めるに違いない。
 探求してみようと思う。
 
 
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老上海の推理小説家 孫了紅 日本敗戦後の上海を切る [作品紹介]

 孫了紅の作品は、前期が1920年代30年代に書かれ、後期の作品は40年代に書かれた。後期の作品には物語の時代的背景が重厚に書き込まれ、作品の風格を更に高いものとした。魯平の描写にもみがきがかかった。
 作品の時代感を描写した『蓝色响尾蛇』のさわりの部分を紹介しよう。原文は名文。素晴らしい中国語だと思う。
 我が訳は稚拙。更なる勉強を要す。


 戦争が終わって、今日でもう数十日たってしまった。青天光輝の下、数多くの偉大なる目に喜ばしきシーンが繰り広げられている。
 「勝利」という絵の具を塗りつけたスターが登場するし、おしろいを鼻にはたいた傀儡はおびえているし、美辞麗句を書き連ねたビラは壁一面に張られているし、血生臭い資産にはバッテンがつけられる。高官たちは勝利の御旗のもと、わが国得意の魔術を演じているーその名は五鬼搬運法。彼らが一声発し、呪文を唱えれば、黄金や宝石が出現する。呪文を唱えれば、今度は自家用車に洋館だ。
 倉庫は販売中で、物価は動乱、ジープは上海を疾走し、シャンパンは泡立ち、祝賀用の爆竹は炸裂している。街角の庶民は眼を丸くして、美しく飾り立てた彩色牌楼を鑑賞している。

 抗日戦争勝利後の上海における混乱と、高官たちによる接収の名をかりた、財産略奪を皮肉っている。抗日戦争勝利後も上海に滞在した、堀田善衛氏の『上海日記』などを読むと、この高官たちの財産囲い込みは本当にひどかったようだ。
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老上海で活躍した推理小説家 孫了紅の反語法 [作品紹介]

 孫了紅の反語法のみならず文章は素晴らしいと思うのだが、訳文が稚拙ですいません。
 
 『蓝色响尾蛇』から、「文明人」と戦争について

 人類というもの戦争が好きである。文明人を自称する人たちほど、余計に戦争が好きだ。この高貴な習性は、たびたびまたいたるところで顔をだす。大きくは国際間の戦争、小さいのはそこらの街角で。喧嘩は戦争の雛形であり、戦争とは文明の先駆けなのだ。世界に戦争がなくなると、例えば原子爆弾のような文明の精華を、大急ぎで生産する必要がなくなってしまうではないか。だから、戦争は熱烈に褒め称えられなくてはならない。そしてまた、喧嘩をも熱烈に奨励されなくてはならないのだ。
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老上海で活躍した推理小説家 孫了紅 反語法の天才 [作品紹介]

 米原万理さんの著作『オリガ・モリソヴナの反語法』は、厳しい時代を生き抜いた優雅でしたたかな女性を描いた。過酷な時代に翻弄されながらも、自分を見失うことなく、生き抜いた女性。旧ソ連の収容所での過酷な体験。
 彼女はその中で華麗な反語法を身につける。
 孫了紅は、半植民地化した中国、日本の侵略にさらされた中国にあって、日本敗戦後の中国でも、厳しい社会批判を反語法でやってのけた。その筆は厳しく鋭く時代を皮肉った。
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老上海で活躍した推理小説家 孫了紅 東方のルパン魯平 [作品紹介]

 程小青の手になる「大探偵」の霍桑は、伝統的かつ時代精神であもある正義を体現する人物である。一方魯平は
といえば「侠客」であり「盗人」でもあり、「探偵」でもある。一人の人物の多様性を描き出した。魯平には、正義感も、民族の大義もある。ただ彼は社会に対し、嘲笑、皮肉、風刺といった態度で対峙した。
 魯平のような人物と孫了紅の作品の風格は一致している。 『侠盗魯平奇案』での文章の風格は、風刺、批判、嘲笑、反語などであり、現実を鋭く批判している。
 

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老上海で活躍した推理小説家 孫了紅 東方のルパン魯平 [作品紹介]

 東方のルパン魯平を作者の孫了紅は次のような人物として紹介している。
 
 一般的な印象では、この赤いネクタイをしめた青年ー魯平は常人を超えた能力があるかのようだが、それは間違っている。実際には普通の人より少しばかり賢くて、活動的なだけだ。彼はあくまでも人間であり。彼の神経だって、我々と同じ人間の神経をしている。別に鋼鉄で出来ているわけではない。魯平は高尚な趣味をもっている。たとえばおせっかい焼き、嘘つき、人のものを盗む、喧嘩なんていうのもそのうちの一つだ。

 孫了紅は、この人間くさい魯平に恋をさせる。普通の人と同じように。程小青の手による霍桑は、「金」と「恋愛」の
ことには触れないのである。名探偵は恋愛に迷ってはいけない。金銭に汚くてはいけない。ホームズやポアロと同じように。
 魯平を描く時、孫了紅は彼を美化することをしなかった。「偉大な、高貴な、完全な」という印象をもたれないようにしたのである。だから、日本のスパイに恋をした。
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老上海で活躍した推理小説家 孫了紅 東方のルパン魯平 [作品紹介]

 孫了紅の手になる魯平も紳士ではあるが、霍桑とはその風格は違っていた。彼は矛盾を背負っている存在である。彼は正しくもあり誤ってもいる。盗人であり義の人でもある。紳士でもあり、世間をあざける不良でもある。
 魯平は耳に赤いあざがあるため、自ら好んで赤いネクタイをしめた。彼の登場する小説『燕尾須』では彼の様子を
次のように表現している。「それは美しいスーツ姿の青年であった。」
 魯平は、そのスーツ姿でパーティに出席するわけではない。彼はそのおしゃれなスーツ姿で盗みに入るのである。
 そして彼が狙うのは、漢奸陳妙根の邸宅。
 魯平はその「盗賊哲学」を次のように語った。

  彼は体面を大切にし、服装をきちんとすることに心を費やす。彼にも哲学があるのだ。この世界で現実に適応した新たなスタイルの怪盗でありたいから、そのためには先ず外観を整えなくてはいけない。体面をきちんとしているからといってそういう方々すべてが盗人とはいわないが、上等の盗人は必ず体面をきちんとしているものだ。

 中略

 彼はまたふと思いついた。なんでこの世の人はみんな役人になりたがり、盗人にはなりたがらないのだろうか?
いってみれば、役人と盗人にはたいした差はないではないか。両方とも陰でコソコソ暗躍し、暗闇の中で触手を動かす。目的、手段、ほとんど一緒じゃないか。違うのは、盗人が伸ばす触手は一人の人間の眉を顰めさせるか、せいぜい一家の顰蹙をかうだけだが、役人の伸ばす触手は一つの国家をも対象にしており、国民みんなの顰蹙を買う。その害の程度は盗人のほうがずっと軽い。
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老上海の推理小説家 孫了紅 東方のルパンを創造 [作品紹介]

 程小青と並ぶ推理小説家孫了紅。怪盗を推理の主人公にする小説は中国語では「反偵探小説」といいます。この分野で有名だった孫了紅。怪盗魯平と霍桑には共通した特徴がある。正義感と、貧しい庶民の味方をしない法律、特権階級のために存在する法律を憎んでいること。
 程小青の霍桑がシャーロック・ホームズを意識して創作したように、孫了紅はフランスのアルセーヌ・ルパンを意識して創作した。魯平は怪盗紳士である。
 魯平は、民衆から搾取し、不正な蓄財をした金持と、資本家の手先の警察を敵に回し、あえて言えばこのような国家に対する反逆者である。霍桑が警察の依頼を受けて、事件を解決するのとは全く違う。社会に存在する激しい貧富の差を憎み、人と人のだましあい、虚偽を嫌った。
 それでは孫了紅は魯平をどのような人物として創作したのだろうか。
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オールド上海で活躍した探偵小説家 程小青だけではない [作品紹介]

 老上海で活躍した推理小説家は程小青だけではない。霍桑探偵集が刊行されているため、今も程小青の作品を楽しむことができるが、他の作家の作品は入手ができない。ただ、研究書には何人か紹介されている。読んでみたいなと強く思う。
 まず、孫了紅を紹介しよう。
 孫了紅(1897~1958)。原籍は浙江寧波。彼の何代かまえの先祖が上海の棋盤街(現在の広東路と河南路の間)に孫広興時計店を開業。父は孫友三といい、絵画に優れた才能を発揮し、特に松の絵に長けていたので、孫松とも名乗った。
 孫了紅の創作活動は20年代~40年代にかけてである。彼は東方のルパンを創作した。怪盗魯平を探偵役にした小説を創作したのである。彼が中国ではじめて怪盗探偵を創造した。
 孫了紅の人物については、彼の友人が回想して、次のように言っている。
 了紅は中肉中背で、やや猫背気味、磊落で小事に拘らない性格だった。菜館でお茶を飲みながら、紙を広げ、しばし熟考したかと思うと素晴らしい速度で文章を書いていった。原稿用紙を使わず、紙であったら何にでも文章を書いた。文章を書いている途中でたびたび吐血し、それを自嘲して
 「昨日、紅墨汁をひっくり返してしまった。」と言っていた。文章を書くということについては非常に真面目で、厳しかった。誤った文字を使ったり、文章を誤ったりすることを見過ごすことは決してなかった。その真面目さと責任感で尊敬を受けていた。
 
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中国の呪術 [作品紹介]

 霍桑探偵集の『虱』には、古都蘇州の迷信に関する記述があります。人の形を木で作ったり、紙でつくったりして、呪術を行ったり、死者の魂を操ったり、様々な呪術があるそうです。道士、法師、巫者などが術を操るのだそうです。
もう少し追求したくて、『中国の呪術』(大修館書店)を読んでみました。著者である松本浩一氏は中国宗教学の学者。台湾に20年以上通い、台湾の呪術について研究されています。実際に体験した儀礼のもようは迫力満点。
もう一冊は『中国の呪法』著者は澤田瑞穂氏。1984年の書籍で古書で入手しました。中国古来の文献資料を整理して解説した書籍です。
 見鬼、呪詛、蠱毒、雑卜、厭勝の項目ごとに文献をひいて解説しています。
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